エネルギー/電池材料

「次世代電池時代の安全設計 ― ポリイミドが支える“燃えにくいリチウムイオン電池”」

【市場動向:エネルギー転換の中で問われる“安全性”】

EV(電気自動車)、ESS(定置型蓄電)、モバイル機器。世界的な脱炭素・電動化の流れの中で、リチウムイオン電池(LIB)は不可欠な技術基盤となりました。しかし、エネルギー密度の向上と引き換えに、発火・熱暴走のリスクが大きな課題として残っています。電解液の可燃性(炭酸エステル系溶媒)やセパレーターの熱収縮による内部短絡は、しばしば重大な事故を引き起こします。このため、次世代電池開発では「高容量化」よりもむしろ「安全化」が最優先テーマとなりつつあります。

【構造的アプローチへの転換】

電解液や電極材料の改良だけでは、完全な熱暴走防止は困難です。一度異常発熱が起これば、内部の構造そのものが融解・変形し、電極間の絶縁が破壊されてしまうからです。この構造的問題を根本的に解決する手段として、「燃えにくく、溶けにくく、構造を維持する高耐熱ポリマー」が注目されています。中でもポリイミド(PI)は、芳香族環を主鎖に持つことで400℃級の熱安定性を示し、熱時にも自己炭化層を形成して酸素遮断層となる“自己防火性”を備えています。これにより、内部温度上昇時にも形状を保持し、短絡を防止する役割を果たします。

【材料開発の方向性】

LIB分野では、以下の3方向でPIの活用が進んでいます。

1.セパレーターの耐熱・難燃コート層
 - PE/PP基材にPIを薄くコーティングし、熱収縮を抑制。
 - 溶融点を300℃級まで引き上げ、内部短絡を防止。

2.セル外装・絶縁補強フィルム
 - 低CTEかつ高絶縁のPIフィルムをセル積層部の補強材に。
 - 熱変形を抑制し、封止・寸法安定性を向上。

3.封止・バリア層
 - 電解液の揮発・吸湿を防ぐガスバリア機能。
 - 化学安定性により電解液・溶剤との反応を抑制。
これらはすべて、電池の“受動的安全機構”として機能します。すなわち、「異常が起きても構造的に拡大を防ぐ」という設計思想です。

【市場トレンド:EVから全固体電池へ】

車載用途では、リチウムイオン電池に代わり全固体電池の実用化が進められています。ここでも界面抵抗や電解質接触安定化に、ポリイミド系薄膜が有効とされています。高温プロセスにも耐えることから、セラミックとの複合化や積層プロセスでの中間絶縁層にも展開可能です。日本国内でも、NEDOや主要自動車メーカーが高耐熱ポリマーを中心とした難燃化・高信頼設計の研究を強化しており、材料サイドでの提案余地は今後さらに広がると予測されます。

【当社の技術と可能性】

当社では、ポリイミドの分子設計・変性・フィルム化技術を応用し、高温下での安定性と加工適性を両立させた耐熱材料を検討しています。
特に、

• 薄膜PIコーティングによるセパレーター難燃化

• 熱応力を吸収する柔軟性フィルムの設計

• 溶剤耐性・界面密着性を考慮したフォーミュレーション

といった要素は、電池安全化の鍵となる領域です。現時点では量産材として確立した製品ではありませんが、お客様の課題・プロセス条件を共有しながら、実用化へ向けた検討・提案が可能な体制を整えています。

【まとめ】

高エネルギー密度化が進む時代において、“安全”はもはやオプションではなく、最優先の設計要件です。ポリイミドは、燃えにくく・変形せず・構造を守るという、構造安全性を支える材料として極めて有望です。当社の「ポリマー合成・特殊変性・フォーミュレーション・フィルム化」技術は、こうした燃えにくい電池のための構造設計において、お客様の開発課題に寄り添い、最適な材料構成を共に検討できると考えています。

【引用文献】

1.N. Choudhury et al., Progress in Polymer Science, 118, 101415 (2021).
 ― 電池分野におけるポリイミド系絶縁膜・セパレーターの総説
2.Asahi Kasei Hipore™ Technical Brochure, 2023.
 ― PE/PPセパレーターの熱収縮挙動(120–140℃域)データ
3.S. H. Lee et al., Journal of Power Sources, 481, 228861 (2020).
 ― ポリイミドコートセパレーターによる難燃化・高耐熱化の報告
4.J. Kim et al., Electrochimica Acta, 405, 139762 (2022).
 ― PI複合膜を用いたLIBの安全性向上事例
5.NEDO 技術ロードマップ2024「二次電池編」.
 ― 高安全性材料・全固体電池向けポリマー材料動向